「オンライン研修にすべきもの⇔オフライン研修にすべきもの」の見分け方

2021年10月以降、東京都の新型コロナウィルス感染症の新規感染者数は二桁代に減少し、日本の人事業界においてもニューノーマルへのパラダイムシフトを推進しようとする環境整備が急ピッチで進んできていることを実感していました。特に、直近の計画では2022年度春以降の教育研修について、オンライン研修に移行して実施していた研修をオフライン研修に戻し実施しようするとする動きが見られました。しかし、2021年11月に南アフリカで最初に確認されたオミクロン株などの変異株がグローバルで感染拡大傾向を見せ始めたことから、せっかく新しく動き始めた研修企画は、振り出しに戻された感があります。

コロナウィルスは、2019年12月初旬に,中国の武漢市で報告されてから間もなく、日本では2020年4月には緊急事態宣言が発令されるパンデミックをひきこしました。この約2年間の経験をもとに、日本の人事業界はどのように教育機会の在り方を整理し、企画・教育実施をしていけばよろしいのでしょうか。この大きな時代変化の局面において、人事が過去の成功体験を基本としたオペレーション思考を中心とした人材マネジメントを実施するのか、劇的な環境変化を大きなチャンスととらえて創造性に富み、企業の持続可能性を高める施策に舵を切れるのか、人的資本価値を引き上げる企業とそうでない企業の分かれ道となります。

これまでの教育研修は、職務遂行能力を形成する課題対応力、人間対応力、知識の向上を目的とした研修でしたが、知識のインプット系の研修は、オンライン研修に移行する。オフラインでの研修は、3つの視点を中心に組み立てることをお勧めします。

①サステナブルな企業価値の向上とニューマンキャピタル

②リアリティある社会との接点よる社会課題に対しての当事者意識醸成の視点

③パーパス経営に立ち戻る視点

です。この3つの視点を入れ、2022年度以降の研修を組み立てられると、御社の人材育成のステージが上がる事でしょう。

 

サステナブルな企業価値の向上とニューマンキャピタル

経済産業省は、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」令和2年9月20200930_1.pdf (meti.go.jp) において、企業の競争力の源泉である「人的資本」についてレポートを示しています。新型コロナウィルス感染症への対応はもとより、Society5.0に向けた人材戦略の在り方が問われており、人材マネジメントの方向性は「管理」から能力開発に留まらない人材育成への「価値創造」へと向かっていくことが求められています。これまでオフライン研修において、中心的に行ってきた職務遂行の能力の枠を超えた教育施策が重要でることが示されています。

工業化社会からSociety5.0へ

参考:令和2年9月 経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート ~」 20200930_1.pdf (meti.go.jp) を参考にBSS作成

 

日本の能力開発(OJT、Off-JT、自己啓発)の位置づけ

企業での能力開発は、「仕事に役立つ能力、スキル、知識を獲得する学習」であり、企業が実施するものは、①OJT(On the job training)、②Off-JT(off the job training)、③自己啓発によって構成されています。このあたりは、言うままでもないことと思いますが、今回、オンライン研修にすべきものと、オフライン研修で実施すべきものを整理する上で、日本での能力開発について確認していきましょう。

OJTは、石山(2018)によれば、仕事をしながらの行う学習行動の項目の分析を行い「人から学ぶこと」「参加して学ぶこと」「仕事に役立つ情報を共有すること」の3つの項目がOJTにあたるとしています。Off-JTについては3つの分野が存在し、階層別研修、専門別研修、課題別研修です。これは職務遂行能力を形成する課題対応力、人間対応力、知識の向上を目的とした研修でした。現在多くの企業は階層別研修を中心に企業研修は設計していることでしょう。自己啓発については、語学学習などの資格取得を促す目的で推奨しているものです。表1にご覧ください。

OJT、Off-JT、自己啓発の位置づけ

OJTのメリットとして挙げられることは、①職場全体の能力の均一性を高めることができる、②職場において相互の監視役を担い切磋琢磨を醸成できる、③職場全体のメンバーに関わりよる、企業文化や個別の組織文化の内化を図ることができることが挙げられます。Off-JTによるメリットは、

        • メリット1:多くの人を同時に教育できる。
        • メリット2:社内外の専門家から日常業務では得られない知識や情報を得ることができる。
        • メリット3:門を超えて社員が集まり交流を深める機会を得ることができる。

であり、Off-JTでの階層別研修はゼネラリスト育成を意図し、画一性高く・同質性のある人材育成を推進しました。

Off-JTの教育が一般化している昨今、メリット1,3の効用を中心に、研修を組み立てている企業が多くみられます。この研修の目的の一義としては、能力開発ですが、副次的に同期が集い関係構築することによる早期離職の抑制も念頭にいれた取り組みであったのではないでしょうか。

このコロナ禍において、意図せず「働き方改革」の文脈で挙げられていたリモートワーク、テレワークによる業務推進は行われては来ているものの、オフィスという空間でおこなれてきたOJTによる「やって見せ、説明し、やらせてみて、追加補足説明を加える」というトレーニング機会は縮小傾向にあります。今後教育機会を検討する際には、この働く環境変化も含めて企画・設計する必要があるでしょう。

 

オフライン研修をオンライン研修に移行した場合のリスク

これまでOJT、Off-JTで行ってきた教育効果を踏まえて、オンライン研修に移行した場合のリスクを見ていきましょう。

【OJT】オンライン(リモートワーク)での変化

        • 企業文化の継承、実践の場の減少によるエンゲージメントの低下が懸念。
        • オンライン環境での情報共有は目的的に行われるようになることから、オフライン環境で暗黙知として共有、指導されてきたことが困難に。
        • 若年層としては、自宅=オフィスという環境空間で、メンタルヘルスに対する適応が問題に。
        • 職場の上司、先輩、同僚とのネットワーク形成が困難に(十全的参加が職場に出勤していた時と比較すると圧倒的に時間がかかる)

【Off-JT】オンライン研修での変化

        • 集合研修、宿泊を兼ねた研修などよって培われてきた同期形成の視点が不足。
        • 職場風土、個々の状況にもよりますが、他の仕事をパソコン上で実施をしながら、オンラインで研修を受講するということが可能になり、研修参加、学習への能動性、が困難。
        • 個人のキャリア形成、メンタルモデル、メタ認知などの自己認知を高める研修は、オンラインという環境下での実施は、自己開示や他者とのすり合わせが困難に。
        • 社外への視点の課題が残ります。もともとオフラインで研修実施をしている際にも、能動性や社外への視点については課題視する声がありましたが、特にニューノーマルの時代に突入している中、SDGsを念頭にいれたサステナブルな人材教育が課題が残ります。
          企業の人的資本による経済パフォーマンス面で重要な役割を果たすだけなく、健康、福祉、子育てなどの個人的、社会的に利益を生み出すことを意味します(OECD, 2001d)。

今回列挙した内容は、代表的なリスクであり、今後、マニュアル化されていた業務、ルーティーン化されていた業務を遂行することは、リモートワークにおいてもある程度、実施をしていけるが、新規企業構築などの創造性を伴う業務に関しては実現性が難易度が上がるとが予測されるため、リモートワークが進むステージに応じたリスクが増加します。

 

まとめ

インプット系の研修は、オンライン研修に

仕事環境の変化、今後コロナの変異株がどのような動きを見せるか分からない中で、Off-JTのメリット活かした「多くの人を同時に教育できる」「社内外の専門家から日常業務では得られない知識や情報を得ることができる」といった知識の向上を図るものは、積極的にオンライン研修に移行していいでしょう。又、人材の同質性や、均一性を狙い、課題対応力、人間対応力の知識をインプットもオンライン研修に移行してよろしいでしょう。

人的資本・創造を目指す人材育成はオンライン研修に

伊藤レポートにもあったように、人的資源管理から人的資本・創造を目指すための能力開発、又、このコロナ禍における仕事環境変化に適応させるための研修は、オフライン研修で実施することが望ましいでしょう。このような状況下の中で、【Off-JT】オンライン研修での変化で示した社外への視点をどのように教育体系に盛り込むのか、これがポイントです。

①サステナブルな企業価値の向上とニューマンキャピタル

②リアリティある社会との接点よる社会課題に対しての当事者意識醸成の視点

③パーパス経営に立ち戻る視点

この3つの視点を含めた企業の収益力・持続性の強化と、社会課題の経営に取り込むことができるサスビナリティ人材育成を企画・教育実施していけるかが、企業の人的資本価値を引き上げるキーになるでしょう。

 

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担当:川九

【出典】
石山恒、2018、「越境的学習のメカニズム~実践共同体を往還しキャリア構築するナレッジ・ブローカーの実像」、福村出版.
Organization for Economic Co-operation and Development.(2001d). The well-being of nations: The role of human and social capital. Paris: Author.